【No733】生産緑地の一部解除に係る留意点
生産緑地の指定を解除するための「買取りの申出」の手続は、①指定を受けてから30年経過(特定生産緑地の場合は指定を受けてから10年経過)、②生産緑地に係る農林漁業の主たる従事者の死亡、③主たる従事者が農林漁業に従事することを不可能にさせる故障として国土交通省令で定めるもの(※)を有するに至った時、の3つの事由に限定されています。(生産緑地法第10条、第10条の5)
(※)両眼の失明、精神の著しい障害、神経系統の機能の著しい障害、胸腹部臓器の機能の著しい障害、上肢若しくは下肢の全部若しくは一部の喪失又はその機能の著しい障害、これらに掲げる障害に準ずる障害、1年以上の期間を要する入院その他の事由により農林漁業に従事することができなくなる故障として市町村長が認定したもの(生産緑地法施行規則第5条)
複数の生産緑地を所有される方が、③の事由に基づき一部の生産緑地についてのみ買取りの申出を行う場合、残った生産緑地の主たる従事者の取扱いについては注意が必要です。
<設例> 父が生産緑地を3か所(A・B・C)所有。主たる従事者は全て父で、生産緑地Aについてのみ買取りの申出を行い、土地の有効活用を行うものと仮定します。
1.農林漁業の主たる従事者とは
農林漁業の主たる従事者とは、専業従事者はもちろん、兼業従事者であってもその者が従事できなくなったため、当該生産緑地における農林漁業経営が客観的に不可能となるような場合における当該者をいい、世帯主に限定されません(生産緑地法逐条解説)。
なお、主たる従事者が65歳未満の場合には、その従事日数の8割以上従事した者、主たる従事者が65歳以上の場合には、その従事日数の7割以上従事した者も主たる従事者に含まれます。
また、平成30年9月1日から「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」が施行されたことに伴い、同法等に基づき生産緑地を市民農園等として貸借した場合でも、生産緑地の所有者が主たる従事者(市民農園の開設者等)の年間従事日数の1割以上の日数分、見回りや周辺住民からの相談等に従事すれば、主たる従事者に該当する旨の改正が行われています。(生産緑地法施行規則第3条)
以前は、生産緑地を市民農園等として貸借した場合、主たる従事者が存在しないこととして取り扱われ、生産緑地所有者に相続が発生しても主たる従事者の死亡に該当せず、買取り申出ができないケースがありました。
都市部に農地が必要だという考え方のもと、都市農地(生産緑地)の貸借を円滑化することだけでなく、税制面の手当てとして貸借されている生産緑地について農地等の納税猶予を認める等、近年生産緑地に関する様々な制度改正が行われています。
2.生産緑地を一部解除した場合
市町村によっても取扱いは異なると考えられますが、上記の例における生産緑地B・Cの主たる従事者は、父が農業従事できないことを理由に買取りの申出を行っている以上、他の家族(妻や子等)に変更されるケースが多いものと考えられます。
その場合、父に相続が発生しても、生産緑地B・Cの主たる従事者は父ではなくなっているため、父の死亡を理由に生産緑地B・Cの買取りの申出をすることはできなくなり、生産緑地を売却しての納税や生産緑地の物納という選択肢が閉ざされてしまうことになります。
例えば、生産緑地B・Cは父の自宅近くにあるため引き続き農業従事が可能であるとして、主たる従事者が変更されないケースもあり得ると思いますが、主たる従事者の取扱いは相続税の納税プランに影響を及ぼしかねないため、生産緑地の一部解除を行う前には確認しておきたいポイントです。
なお、主たる従事者が変更されたとしても、生産緑地B・Cが生産緑地であることに変わりはないため、特定生産緑地の指定を受けたうえで、農地等の納税猶予の適用を受けることは可能です。
(担当:三浦 希一郎)