【No752】特定口座を確定申告することによる合計所得金額への影響について

 所得税の確定申告を行う際に上場株式等の譲渡等が源泉徴収有りの特定口座(以下「源泉徴収口座」という)で行われている場合には原則として申告不要を選択することが可能ですが、他の口座での譲渡損益と通算する場合や譲渡損失を繰越控除する特例の適用を受ける場合には確定申告を行う必要があります。

 この場合において還付される税額とは別に、申告を行ったことにより合計所得金額が増加することが他の税制に影響を与えることがありますので、今回は確定申告に関連する項目を中心にこれらの影響につきご説明します。

1.合計所得金額とは

 次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額をいいます。

①事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の 合計額

②総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額

 なお、申告分離課税の所得がある場合にはそれらの所得金額の合計額を加算した金額になるとともに、繰越控除の適用を受けている場合には、その適用前の金額をいいます。

 つまり、源泉徴収口座につき申告不要を選択している場合には合計所得金額に加算されることはありませんが、源泉徴収口座を申告した場合にはそれらの所得の損益通算後の金額が合計所得金額に加算されることとなります。また、前年以前からの繰越損失については過年分の損失となりますので本年分の合計所得金額からは控除されません。

2.源泉徴収口座を申告したことによる合計所得金額への影響

 申告不要である源泉徴収口座をあえて申告するということは、税制上有利になる選択を行うことが目的であることが前提となります。例えば損益通算を行うことで既に徴収済みの所得税や住民税の還付を受けることができること、また過去の繰越損失を活用して本年分において徴収済みの所得税や住民税の還付を受けることができることは納税者にとって大きなメリットとなります。

 しかし、確定申告を行うということは敢えて申告する必要のなかった所得金額を所得として自ら認識させることになり、その結果、税務上の判定の多くの場面で登場する合計所得金額を増加させることになります。所得金額の増加に対する1つの大きな問題点として社会保険料が増えるという点があげられますが、これらの対策方法としては所得税のみを確定申告し、住民税を申告不要として保険料負担の増加を抑制する対策を行うことは可能です(詳しくは№655をご参照ください)。ただし、合計所得金額の増加は所得税自体に直接影響を与える項目が複数あり、これらは仮に住民税を申告不要としても関係ないものとなりますので注意が必要です。

(例)合計所得金額の考え方

(前提条件)所得は源泉徴収口座のみ 源泉徴収される税金を便宜上20%で計算します

ケース①

 A証券口座 +500万円(税金100万円)  B証券口座 ▲800万円

  合計所得金額:500万円-800万円=▲300万円

  還付金額:100万円

ケース②

 A証券口座 ▲500万円   B証券口座 +800万円(税金160万円)

  合計所得金額:800万円-500万円=+300万円

  還付税金 :100万円

ケース③

 A証券口座 +500万円(税金100万円) 過年分からの繰越損失▲800万円

  合計所得金額:+500万円(繰越損失控除前)

  還付金額:100万円

 

上記のケースは損益通算又は繰越損失を活用することでいずれも還付金額100万円となっていますが、合計所得金額はすべて異なる金額となっていることご確認ください。

3.合計所得金額が増加することによる影響がでる所得税の制度

 合計所得金額が増加することに伴い影響の出る可能性がある制度は下記のとおりとなります。

 なお、各控除においては当該合計所得金額基準以外にも別途要件がありますので、適用時には確認いただきますようお願いいたします。

①配偶者控除

・配偶者の合計所得金額が48万円以下であること

・本人の合計所得金額が1,000万円以下であること

②扶養控除

・扶養の対象となる者の合計所得金額が48万円以下であること

③基礎控除

・合計所得金額2,500万円以下であること

(注)合計所得金額2,400万円超2,500万円以下の場合には控除額が減少します。

④住宅ローン控除

 住宅ローン控除を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下であること

(文責:税理士法人FP総合研究所)