【No756】相続登記の義務化等を盛り込んだ不動産登記法等の改正案について

 近年、所有者登記が変更されずに放置されている「所有者不明土地」が特に地方を中心に増加し、その土地の利用が阻害されるなどの問題が生じています。政府はその問題の解決に向け、3月5日に相続登記の義務化等を盛り込んだ民法や不動産登記法の改正案を閣議決定しました。今回は閣議決定された改正案の内容の一部を紹介いたします。

1.現行法における問題点

 現行法においては、不動産を相続しても登記をするかどうかは相続人等の任意であり義務はありませんでした。そのため、登記変更をしないままの土地が増加してしまい、その結果、登記簿を確認しても現在の所有者がわからずに公共事業や民間取引の障害となるといったような問題が生じてしまいました。

 また、引っ越しなどで住所変更となった場合も同様に所有者住所の変更登記の義務はなく、こちらも住所変更登記を行われない土地が増加する要因となっていました。登記簿上の所有者住所が旧住所であった場合でも、不動産を売却したりしなければ特に支障はありませんが、住所変更をしないまま長い時間が経過してしまうと、不動産を売却する際に手続が煩雑になってしまうなどの問題がありました。

2.相続登記の義務化及び所有者の氏名・住所の変更登記の義務化

 上記1のような問題点を改善するため、今回の改正案では相続登記と所有者の氏名や住所の変更登記が義務化するとしています。改正案の内容は以下のとおりです。

① 相続登記の義務化について

 土地を相続等により取得した相続人には、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務化されます。また、正当な理由なく登記申請を怠ったときは、10万円以下の過料が科されます。

② 所有者の氏名・住所変更登記の義務化について

 所有者の住所や氏名が変更となった場合、その変更があった日から2年以内に変更登記の申請を行うことが義務化されます。また、正当な理由なく登記申請を怠ったときは、5万円以下の過料が科されます。

3.相続人申告登記(仮称)の創設による登記申請の負担軽減化

 相続登記を怠った際に過料が発生することになった場合、もし登記申請義務期限までに遺産分割協議が完了しないときはどうすればいいのかという問題が生じます。また、義務化にあたっては登記申請の負担軽減を図る必要もあります。そのため、今回の改正案には相続人申告登記(仮称)の創設が盛り込まれています。

 相続人申告登記(仮称)とは、最終的な相続登記は改めて申請することにして、ひとまず相続人が登記官に「登記名義人(所有者)に相続が発生したこと」、「自らが登記名義人の相続人」であることの申出を行い、登記官がその旨を登記する、という制度です。この申出を行うことで相続登記の義務を履行したものとみなされるとしています。

 なお、この申出にあたっては、相続人全員で申出を行う必要はなく、申出人が法定相続人の1人であることがわかる戸籍謄抄本を提出すれば足りるとされています。

4.相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度の創設

 望まない相続により取得した土地が放置されるといった問題を防ぐために、「相続土地国庫帰属法」が創設されます。

 これは、建物や土壌汚染がなく担保が設定されていないなどの一定の要件を満たした土地について、法務大臣に申請し、10年分の管理費相当額を納付することで、所有権を国庫に帰属させられるようにすることができる制度です。

5.土地の相続登記に対する登録免許税の免税措置

 個人が相続等により土地の所有権を取得した場合に、当該個人が所有権の移転登記を受ける前に死亡したときは、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間にその死亡した個人を登記名義人とする移転登記については、免税の措置が設けられています。なお、当該免税措置については、令和3年度の税制改正により令和4年3月31日まで1年延長することとされています。

 今回紹介した改正案について、政府は今国会で成立させ、令和5年度の施行を目指しています。所有者不明土地の問題については、令和2年度税制改正において固定資産税課税制度の見直しが行われるなど、問題解決に向けた積極的な対応が見受けられます。この改正案が成立し、その施行後に相続登記を怠った場合には過料が発生することになりますので、推定相続人に行方不明者の方がいて、将来遺産分割協議ができない事態が想定される場合などには、遺言を作成するなどの対策を講じる必要が生じます。

(文責:税理士法人FP総合研究所)