【No762】貸家を建替えた場合の小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)について

 相続税の申告において、被相続人が所有していた自宅や貸家の敷地の評価額を大きく減額できる特例として、小規模宅地等の特例があります。今回は、小規模宅地等の特例のうち貸付事業用宅地等について、概要や適用条件を確認するとともに、貸家を建替えた場合の取扱いについて、事例を交えて紹介します。

【1】小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)について

 小規模宅地等の特例とは、個人が相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、相続開始直前において被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で、一定の建物や構築物の敷地の用に供されていたものにつき、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額する規定です。

 この宅地等のうち、相続開始直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等(3年以内貸付宅地等を除く)で、下記の要件を満たす宅地等については、「貸付事業用宅地等」に該当し、200㎡を限度面積として、その宅地等の価額から50%の割合が減額されます。

【2】貸家を建替えた場合の貸付事業用宅地等について 

(1)貸家の建替中に相続があった場合の貸付事業用宅地等について

①前提

 被相続人は所有する土地・建物を、以前より貸し付けており、相続開始前にその貸家の建替え工事に着手し、相続開始時には旧貸家は取り壊されている。なお、相続人は土地を相続したうえで、新貸家の完成引渡しを受け、被相続人の貸付事業を承継している。

②解説

 小規模宅地等の特例は、相続開始直前において、「被相続人の事業の用に供されていた宅地等」について適用があります。このケースでは、相続開始前に貸家を取壊し、建替え工事に着手していることから、土地の評価は「自用地」として評価され、相続開始直前に事業の用に供していないと捉えることもでき、小規模宅地等の特例の適用がないのではないかという疑念が生じます。

 しかし、貸家の建替中に相続があった場合には、以前より営んでいた事業が建替えにより一時的に中断したにすぎず、貸家の建替え前後を通してみれば、被相続人が営んでいた事業を継続していると判断することができます。

 なお、貸家の敷地を相続した相続人が、貸家を相続税の申告期限までに事業の用に供しているときは、相続開始直前において被相続人が貸家を速やかにその事業の用に供することが確実であったものとして取扱われます。

 また、申告期限において貸家を事業の用に供していない場合であっても、それがその貸家の規模等からみて建築に相当の期間を要することによるものであるときは、貸家の完成後速やかにその事業の用に供することが確実であるものとして取扱われます。

 このケースでは、相続人が貸家を相続税の申告期限までに貸付事業の用に供しており、被相続人においては、相続開始直前において貸家を速やかに事業の用に供することが確実であったものとして差し支えないことから、この土地は被相続人の事業用宅地等に該当するものとして取扱われ、かつ、事業継続要件及び保有継続要件を満たしていることから、貸付事業用宅地等に該当します。

【事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合】(措通69の4-5)

 被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのため当該建物等を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物等に代わるべき建物等(被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合で、当該相続開始直前において当該被相続人等の当該建物等に係る事業の準備行為の状況からみて当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったと認められるときは、当該建物等の敷地の用に供されていた宅地等は、事業用宅地等に該当するものとして取り扱う。

 なお、当該被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族又は当該建物等若しくは当該建物等の敷地の用に供されていた宅地等を相続若しくは遺贈により取得した当該被相続人の親族が、当該建物等を相続税の申告期限までに事業の用に供しているとき(申告期限において当該建物等を事業の用に供していない場合であっても、それが当該建物等の規模等からみて建築に相当の期間を要することによるものであるときは、当該建物等の完成後速やかに事業の用に供することが確実であると認められるときを含む。)は、当該相続開始直前において当該被相続人等が当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったものとして差し支えない。

(注)当該建築中又は取得に係る建物等のうちに被相続人等の事業の用に供されると認められる部分以外の部分があるときは、事業用宅地等の部分は、当該建物等の敷地のうち被相続人等の事業の用に供されると認められる当該建物等の部分に対応する部分に限られる。

(2)相続開始後に貸家を建替えた場合の貸付事業用宅地等について

①前提

 被相続人が以前から貸し付けていた貸家とその敷地を相続した相続人が、相続開始後にその貸家の建替えに着手し、相続税の申告期限までに完成をして賃貸ができる見込み。

②解説

 貸付事業用宅地等に該当するには、事業継続要件と保有継続要件を満たす必要があります。相続人が、相続税の申告期限までの間に被相続人の貸付事業の用に供されていた貸家の建替え工事に着手し、申告期限においてまだ工事中であるときは、「申告期限までその貸付事業を行っていること」には該当せず、事業継続要件を満たさないこととなります。

 しかし、貸家の建替え等は貸付事業の継続に必要不可欠なものであり、貸家の建替中に相続税の申告期限が到来した場合に、その申告期限のみで判断することは実態に即していません。

 そこで、被相続人の貸家につき、相続税の申告期限までに建替え工事に着手された場合において、その敷地を相続した相続人によって貸付事業の用に供されると認められる部分については、相続税の申告期限においても事業の用に供されているものとして取扱うこととされています。

 以上のことから、相続人が建替え後の貸家を貸付事業の用に供すると認められる場合には、事業継続要件を満たすこととなり、貸付事業用宅地等に該当します。

【申告期限までに事業用建物等を建替えた場合】(措通69の4-19)

 措置法第69条の4第3項第1号イ又はロの要件の判定において、同号に規定する親族(同号イの場合にあっては、その親族の相続人を含む。)の事業の用に供されている建物等が同号イ又はロの申告期限までに建替え工事に着手された場合に、当該宅地等のうち当該親族により当該事業の用に供されると認められる部分については、当該申告期限においても当該親族の当該事業の用に供されているものとして取り扱う。

(注)措置法第69条の4第3項第2号イ及びハ、同項第3号並びに同項第4号イ及びロの要件の判定については、上記に準じて取り扱う。

(文責:税理士法人FP総合研究所)