1.父親と母親の相続発生順次第で、納付する税額が変わるかも!?
父親(甲)が資産家で、母親(乙)とお子様が二人(A、B)いたとします。
父甲は多額の資産を持っていますが、母乙は資産を持っていないものとします。
【ケース1】父親が先に死亡
父親が死亡した場合、父親の財産は遺産分割により母乙及び子A、Bが相続する事となります。その後、母乙が死亡すると母親の財産は遺産分割により子A、B相続する事となります。つまり父甲の財産は、一部が一旦母乙を経由して、最終的に子A、Bが取得する事となります。
【ケース2】母親が先に死亡
では、逆に母親が先に死亡した場合はどうなるでしょう?
母親が死亡した時、母乙は相続財産を基本的に持っていません。なので何も起こりません。その後、父甲が死亡すると父の財産は直接、子A、Bに相続されることとなります。
いずれのケースも父甲の財産は最終的に子A、Bに移転します。
しかし【ケース1】と【ケース2】では、納付する相続税額が変わってくる事があるのです。
2.具体例
前提条件:父甲の財産 1億5000万円
母乙の財産 0円
子供2人(A、B)
【ケース1】『父甲が先に死亡(一次相続=1回目の相続)』
母乙が財産の半分7500万円を相続
子A、Bが各3750万円ずつ(合計7500万円)を相続
『その後、母乙が死亡(二次相続=2回目の相続)』
子A、Bが各3750万円ずつ(合計7500万円)を相続
この場合の相続税の納付額は、2回合計で1,143万円となります。
【ケース2】『母乙が先に死亡(一次相続=1回目の相続)』
母乙は財産0円。
『その後、父甲が死亡(二次相続=2回目の相続)』
子A、Bが各7,500万円ずつ(合計1億5000万円)を相続
この場合の相続税納付額は、2回合計で1,840万円となります。
父親が先に死亡した場合の相続税は1,143万円で済みますが、母親が先に死亡すると1,840万円の相続税が発生します。その差は697万円にもなります。
なぜこのような事が起こるのか?これは次の二つの要因によります。
①【ケース1】では「配偶者の非課税規定※1」が使えたが【ケース2】では未使用。
②【ケース1】では「基礎控除額※2」が2回使えたが【ケース2】では1回のみ。
(本当は、「超過累進税率」も関係しますが、ややこしいので割愛します)
※1「配偶者の非課税規定」=遺産総額の半分、又は1億6000万円までは非課税。
※2「基礎控除額」=(3000万円+600万円×法定相続人の数)までは非課税。
3.結論・対策
結論といたしましては、両親の内どちらか一方のみに財産が偏っている場合には、相続発生順によって、相続税額が変わってくるという事です。言い方を変えると両親の財産額を平準化しておけば、リスクは回避できるという事です。
両親の財産額を平準化するやり方としては、次の方法が考えられます。
①生前贈与
生前に父(母)から母(父)に財産を贈与する。年間110万円までは、非課税。
②配偶者への自宅の贈与
父(母)から母(父)に自宅を贈与する。20年以上婚姻関係がある夫婦間での自宅の贈与については、2,000万円まで非課税。
③法人を利用
不動産(収益物件)を法人化して、母(父)を役員にして役員報酬を出す。
以上、少し難しい話ではありましたが、やはり相続対策は生前に始めるのが重要という事です。